執筆者 : E.Y ㈱ヤマナカゴーキン フィールドセールス チーフエキスパート
CAEと実験計画法(DOE)で鍛造金型の寿命を延ばす!締め代の最適化解析事例を紹介

鍛造金型の設計に携わっていると、「寿命を延ばしたい」「破損リスクを減らしたい」という思いは、常につきまといます。特に締め代やインサート外径といった寸法条件は、わずかな違いでも応力分布や寿命に大きな影響を与えるため、経験や勘だけに頼った判断では限界があります。
試作や実機検証を繰り返す時間もコストも限られる中で、どうすれば根拠を持って最適な条件を導き出せるのか──。
本記事では、こうした現場の悩みに応えるべく、CAEソフト「DEFORM」と実験計画法(DOE)を活用して、鍛造金型の締め代の適正値を科学的に導き出した解析事例をご紹介します。
目次
鍛造金型の「締め代」最適化のCAE解析事例
本事例は、鍛造金型の寿命や信頼性を左右する「締め代」の適正値を求めるために行ったCAEシミュレーションの紹介です。
対象としたのは、ケースに圧入されるインサートの外径と、それに伴う締め代との関係性。シミュレーション自体は2次元モデルを用いて実施し、寸法条件の違いが金型各部の応力分布にどのような影響を及ぼすかを評価しました。
アウトプットとして注視したのは2点。
① インサートの引張応力はできる限り低く抑えることを目標とし、140MPa以下を基準とすること。
② 締め代が大きすぎるとケースの引張応力が過大となり破損リスクが高まるため、1400MPa以下を許容条件とすること。
これらの条件を満たすために、設計変数である「分割位置(インサート外径)」と「締め代」の影響度合いをCAE「DEFORM」で解析し、最適な組み合わせを探索しました。
DOEで可視化する「締め代」と「外径」のCAE解析
今回の実験計画法(DOE)では、解析結果を応答曲面として可視化し、条件と応力の関係を把握しました。
140MPaを境に判定|インサート側の引張応力評価結果

上図は、インサート側の最大主応力(引張応力)を評価したもので、縦軸が締め代、横軸が分割位置(インサート外径)を示しています。
色分けは、引張応力が140MPa以上となる領域を赤で表示し、それ未満は無色で表現。140MPaという数値は一般的には比較的小さな応力値ですが、本解析ではこれを超えると危険域として扱い、境界を「合否判定」として明確にしました。
応答曲面の傾向からは、インサート外径が小さい(おおよそφ90以下)場合、引張応力が発生しやすいことがわかります。
一方、外径をφ90より大きくし、さらに締め代を大きめに設定することで、インサートの最大主応力を低く抑え、圧縮寄りの応力状態を保つことが可能であることが示されました。
1400MPaを境に判定|ケース側の相当応力評価結果

続いて、ケースの相当応力を評価した応答曲面を見ていきます。
ここでは、締め代を大きくしすぎるとケースへの負荷が高まり、破損リスクが増す点に着目し、合否判定を行いました。
本解析では、ケースの主応力が1400MPaを超える領域を危険域と設定し、赤色で表示しています。
図の傾向を見ると、ケース内径(分割位置)を大きくすることによる影響は比較的小さく、それよりも締め代の大きさが境界ラインに大きく影響していることがわかります。特に、この応答曲面の上下方向で、中間付近よりも上側の締め代値を使用すると、1400MPaを超える危険域に入りやすくなるため注意が必要です。
結果として、ケースへの負荷を抑えるには、締め代を0.3%以下に設定することが望ましいという設計的示唆が得られました。
CAE×DOEで明確に!鍛造金型の最適設計領域
インサート側の最大主応力と、ケース側の相当応力 —— 2つのCAE応答曲面で得られた結果を重ね合わせることで、両者の条件を同時に満たす最適な範囲が明確になりました。
本解析では、インサートの最大主応力を140 MPa以下、ケースの相当応力を1400 MPa以下とする合否判定を実施。その結果、図中の白色領域が、両条件をクリアできる「良い条件」を示しています。
具体的には、分割位置(インサート外径)がおおよそφ100〜φ110付近で、かつ締め代が0.2%程度の範囲に設定すると、インサートの応力は低く抑えられ、同時にケース側の負荷も危険域に入らないことがわかりました。この範囲を外れると、いずれか一方の応力が基準値を超えるため、寸法設計時にはこのバランスを考慮することが重要です。
こうしてCAEと実験計画法(DOE)による解析を用いることで、試作や経験則に頼らず、根拠をもった鍛造金型の構造設計が可能になります。
現場の声から進化を続けるDEFORMの魅力
これまでDEFORMでは、締め代に関するCAEシミュレーションは2次元解析のみに対応していました。しかし、長年DEFORMをご活用いただいている大手企業様からの強い要望を受け、近く3次元でも締め代を対象としたDOEによるCAE解析が可能になるよう、改良が進められています。
こうした進化を支えているのが、開発元である米国企業・SFTCの柔軟な姿勢です。
㈱ヤマナカゴーキンでは、日本のユーザー様からいただいた現場の声をSFTCに直接フィードバックし、多くの機能改善が実際のアップデートで反映されてきました。
日本市場を重視し、本国仕様を押し付けるのではなく、「成果を出すために何が必要か」という視点でCAEソフトの開発に取り組む —— 。
その開発元企業と弊社㈱ヤマナカゴーキンの姿勢こそが、DEFORMの大きな魅力だと自負しています。
今回ご紹介したDOE解析事例も、こうした現場起点の進化の一端にすぎません。今後さらに広がる解析の可能性に、ぜひご期待ください。
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