熱処理

執筆者 : E.Y ㈱ヤマナカゴーキン フィールドセールス チーフエキスパート

CAEで再現するヘリカルギア焼入れの寸法変化|実測HTC反映による高精度解析事例

CAEで再現するヘリカルギア焼入れの寸法変化|実測HTC反映による高精度解析事例

冷間鍛造で成形されたヘリカルギアは、トランスミッションなど精度要求の高い部品に多く採用されます。焼入れ時にはマルテンサイト変態による体積膨張が生じますが、この変化は部位ごとの冷却速度や温度履歴の差によって不均一に進行します。
その結果、狙った寸法からのズレや仕上げ工程での追加工が発生し、生産性やコストに影響を及ぼすことがあります。

こうした課題に対し、本事例では、実測データを活用してCAE「DEFORM」の解析精度を高め、焼入れ後の寸法変化予測の信頼性を向上させました。

 

実測HTCを活用!焼入れ工程の高精度CAE解析

実測HTCを活用!ヘリカルギア焼入れの高精度CAE解析

対象としたのは、弊社㈱ヤマナカゴーキンでもデモンストレーションで長年使用しているヘリカルギア形状です。
解析条件を現実に近づけるため、まずはこの形状を模したモデルを製作し、複数箇所に熱電対を設置して、焼入れ時の温度変化を計測しました。

 

測定結果のグラフ

測定結果からは、例えば先端部は急速に冷却される一方で、中心寄りや上部の位置(例:③番・⑥番測定点)は冷えにくいといった、部位ごとの明確な温度差が確認できました。

 

焼入れ解析精度を高めるためのHTC算出

次に、この温度履歴データを基に各部位の熱伝達率(HTC)を算出しました。
熱処理のシミュレーションでは、焼入れ時の冷却挙動がマルテンサイト変態の進行に直結するため、このHTCを正しく設定することが極めて重要です。

 

熱伝達率(HTC)を算出

実測の結果から得られたこちらのグラフは、部位ごとの温度履歴をもとに導出した実際のHTCを示しています。ヘリカルギアの位置によって熱の伝わり方が異なるという「係数」を解析条件に反映することで、従来の一律設定では再現が難しかった局所的な冷却挙動をモデル内で表現できるようになりました。

こうして、形状や位置ごとの冷却差を忠実に再現できる基盤が整いました。

 

実測HTCをCAE上にて部位別に反映

実証実験で取得した各測定ポイントの熱伝達率(HTC)データを、CAEシミュレーションに直接反映

実証実験で取得した各測定ポイントの熱伝達率(HTC)データを、CAEシミュレーションに直接反映しました。具体的には、ヘリカルギア形状をZ1からZ6までの6つの範囲に分割し、それぞれの位置に対応する実測HTCを個別に設定しています。

上のモデル図は、そのエリア分割と適用範囲を示したもので、各部位が実際に計測した条件で解析されるようになっています。こうすることで、部位ごとの冷却特性を忠実に再現した状態で、ヘリカルギアの焼入れ解析を行うことが可能になります。

 

蒸気膜による局所的な冷却遅れのメカニズムとは

蒸気膜による局所的な冷却遅れのメカニズム

焼入れ工程で用いる冷却油は、一般的に60~80℃程度に温調されており、そこに約900~1,000℃まで加熱した製品を浸します。このとき、油と製品表面との間には「蒸気膜」と呼ばれる膜が瞬時に形成されます。
上記写真のように、製品表面を覆うこの膜は、油の直接接触を妨げるため、冷却が進みにくい状態をつくります。

蒸気膜は時間の経過とともに徐々に上方向へ移動し、膜が破れるとその部分から急激に冷却が始まります。しかし、形状や位置によっては蒸気膜が溜まりやすく、長時間その影響を受け続ける箇所もあります。このため、先端部のように膜が早く流れ去る部位は冷えやすく、胴部や中央付近のように膜が滞留しやすい部位は冷えにくいといった差が生じます。

 

このような現象によって、ヘリカルギアの部位ごとに冷却速度は異なり、結果として焼入れ後の組織変化や寸法変化にも影響を与えることになります。

 

焼入れ後の組織分布を忠実に再現したCAE結果

焼入れ後の組織分布を忠実に再現したCAE結果

焼入れ後の組織分布を忠実に再現したCAE結果その②

焼入れ前のヘリカルギアは、850~900℃程度の高温状態から冷却を開始します。
解析結果を見ると、冷却が進むにつれて、先端部ほど冷却速度が速く、そこから優先的にマルテンサイト変態が進行している様子が確認できます。

一方、冷却の遅い部分では、硬度の高いマルテンサイトではなく、比較的軟らかいパーライト組織への変態が進んでいます。

最終的に約80℃まで冷却された状態が、上図の右に示す結果です。軸先端部や頭部、さらに歯先の一部においてマルテンサイト変態が生じており、焼きがしっかりと入っています。

 

こうした部位ごとの変態分布が明確に再現できているのは、実測に基づく部位別の熱伝達率設定など、解析条件を現実に近づけるための準備を丁寧に行った成果といえます。

 

熱処理による寸法変化傾向の実機とCAE比較

熱処理による寸法変化傾向の実機とCAE比較

このグラフは、熱処理前後におけるヘリカルギアの寸法変化を比較したものです。
計測対象は、頭部の径(直径D)と全長(L)の2か所で、黄色の棒グラフが実機試験結果緑色の棒グラフがCAEシミュレーション結果を示しています。Beforeは熱処理前、Afterは熱処理後の状態です。

あらかじめ補足すると、Beforeの段階ですでに実機とCAEモデルの寸法に差が見られます。これは、実際に鍛造した製品とCAEモデルとの初期寸法が一致していなかったことによるもので、その差がAfterの結果にも全体的に残っている状況です。

実機とCAEの傾向一致による解析信頼性の確認

冷却媒体は、油・水・ポリマーの3種類で比較しています。
まず頭部の径を見ると、熱処理後はいずれの媒体でも、熱処理前よりも寸法が大きくなる傾向が見られます。この変化は、実機・シミュレーションともに共通しており、Before時点での差を維持したまま同じ傾向を示しています。
また、水やポリマーなど媒体が異なっても、実機とCAEの傾向はほぼ一致しています。

全長についても同様に、焼入れ後に伸びる傾向が実機・シミュレーションともに確認でき、媒体による違いにかかわらず同じ方向性を示しています。

これらの結果から、今回のCAEシミュレーションは、冷却条件や媒体の違いに関わらず、実機の寸法変化の傾向をしっかりと再現できていることが分かります。

 

精度要求が高い歯形部寸法の再現性を確認

精度要求が高い歯形部寸法の再現性確認

次に、ヘリカルギアの歯形部における大径(外径)と小径の比較結果です。精度要求が特に高いAセクション(歯形の根元付近)とBセクション(先端側の有効歯面付近)を対象に、実機計測値とシミュレーション結果を照らし合わせ、寸法変化の傾向を確認しました。

結果を見ると、大径・小径ともに、熱処理前(Before)から熱処理後(After)にかけて寸法が大きくなる傾向は、実機・シミュレーションで共通しています。

これにより、製品の精度が厳しく求められる歯形部においても、CAEシミュレーションが実機挙動を高い精度で再現できていることが確認できました。

 

実機傾向を忠実に再現するCAEアプローチの提案

今回の事例では、実測で得られた部位別の熱伝達率をCAEに反映させることで、焼入れ後の相変態や寸法変化を高い精度で再現できることを確認しました。
冷却媒体や形状部位が異なっても、実機の傾向を忠実に捉えられるこのアプローチは、条件出しの効率化試作回数の削減に直結します。

 

㈱ヤマナカゴーキンとDEFORMが提供する、実測と解析を融合させた高精度シミュレーション

もし、御社の焼入れ工程や寸法管理においても、このレベルの予測精度を事前に得られたとしたら、どれだけ手戻りやコストを減らせるでしょうか。製品ごとの仕様や熱処理条件に応じて、同様の環境を構築することは十分可能です。

㈱ヤマナカゴーキンとDEFORMが提供する、実測と解析を融合させた高精度シミュレーションで、ぜひ次の改善ステップを描いてみませんか。

 

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このシミュレーションテーマでよくある質問

オプションを追加したいのですが、すぐに利用できますか?

事務手続き上ご発注から1週間程度お時間を頂いております。

 

■ ライセンスオプション資料のダウンロードページ
DEFORMの計算・業務効率を大幅に改善

DEFORMで、どのような解析ができますか?

冷間・温間・熱間鍛造、押出し、引抜き、板材成形、破断解析、圧延、ロール成形、リングローリングなどが解析可能です。
※解析内容により、必要なテンプレートを選択する必要があります。

・3Dのテンプレート(鍛造、切削、コギング、圧延、押出し、フローフォーミング)
・2Dのテンプレート(鍛造、切削)

高周波による加熱の解析はできますか?

はい、できます。

対応ソフト

  • DEFORM-HT2/HT3
  • DEFORM-2D/3D + オプションMicrostructure(HT)

 

ただし、まだ解析条件や、形状など、いくつか制約がありますので、詳細のご質問については、サポートまでご連絡ください。

年間使用契約に比べ、永久ライセンス(買い取り型)は、どのようなメリットがありますか?

次年度からの更新費用が保守サービス料のみとなり、年間契約に比べ、少ない費用で更新できます。
長い目で見ると、費用的にも割安になります。

 

ライセンスについての詳しい内容は、下記ページよりご確認ください。

■ 導入プランページ
DEFORM製品8つのラインナップと2つのライセンス形態

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