鍛造

執筆者 : E.Y ㈱ヤマナカゴーキン フィールドセールス チーフエキスパート

CAEで放電加工中の金型割れを予測。冷間鍛造金型の破損対策

CAEで放電加工中の金型割れを予測。冷間鍛造金型の破損対策

鍛造金型の製作では、加工途中に予期せぬ割れや欠けが発生し、材料のロスや金型の作り直しにつながることがあります。弊社ヤマナカゴーキンは、こうした金型加工中の破損リスクに対し、DEFORMによるCAEシミュレーションで評価し、加工条件や金型設計の見直しにつなげています。

今回は、DEFORMの解析対象を鍛造成形だけでなく、金型製作の工程まで広げ、加工中の割れを防ぐための活用方法をご紹介します。

 

金型加工時に押さえておきたい放電加工と締め代

鍛造金型の製作に用いられる放電加工

冷間鍛造では、高い成形荷重に耐えるため、金型のインサートに超硬合金などの硬く耐摩耗性に優れた材料が多く使われています。こうした高硬度材に、複雑なギヤ形状などを加工する際に用いられるのが、形彫り放電加工(EDM)です。

 

形彫り放電加工(EDM)

形彫り放電加工では、金型形状に合わせた電極を用意し、電極と金型材料の間に放電を発生させることで、電極形状を転写するように加工していきます。
工具で直接削る切削加工とは異なり、高硬度な超硬合金にも複雑な形状を加工できることから、冷間鍛造用金型の製作でも活用されています。

締め代を与えた状態で行う金型加工

冷間鍛造用の金型では、インサートをケース(リング)に焼ばめ、もしくは圧入して圧縮の予応力を付与し、その「締め代」によって圧縮応力を与えることで、鍛造成形時の割れや破損を抑えています。

この締め代によってインサート形状もわずかに変化するため、インサートを単体で加工するのではなく、ケースに組み付け、実際の締め代を与えた状態で内側の最終形状を放電加工する方法が採られます。

 

STEP1:金型組付け工程

STEP2:放電加工工程

ただし、この段階ではすでに、インサートに締め代による応力が加わっています。そこから放電加工によって形状を徐々に削り込んでいくことで、応力状態も変化していきます。

この「締め代を与えた状態で加工を進める」という工程が、今回取り上げる金型加工中の割れや欠けと深く関係してきます。

 

金型加工中に割れが発生する理由

ギヤ形状の金型では、まず超硬合金のブランク材をワイヤ放電加工などで粗加工し、その後、インサートをケースに組み付けます。さらに締め代による予圧を与えた状態で、形彫り放電加工によって最終形状へ仕上げていきます。

ここでポイントになるのが、

すでに応力が加わったインサートを、さらに加工していく

という点です。

例えば今回のギヤ形状では、上部側のみを深く放電加工することで、その部分の肉厚や剛性が変化します。つまり、上部と下部では除去される材料の量が異なるため、応力のかかり方にも差が生まれます。
その結果、局所的に応力が集中し、加工途中の割れ欠けにつながることがあります。

 

締め代を与えた状態で加工を進める

こうした変化は、完成した金型だけを見ても把握しにくいため、どの加工段階で、どの部分に応力が集中するのかを事前に捉えることが、金型破損を防ぐうえで重要になります。

 

DEFORMで加工前後の応力変化から破損リスクを見極める

CAEソフトウェア「DEFORM」では、インサートとケースを組み付けて締め代を与える工程から、その後の放電加工までを再現し、加工の進行に伴う金型内部の応力変化を確認できます。

今回のギヤ形状では、締め代0.6%の場合、金型組み付け時に約360MPaだった最大主応力が、放電加工後には局所的に約500MPaまで上昇しました。実際に金型が破損した箇所とも重なっており、加工による形状変化が応力集中につながっていることが確認できます。

 

STEP1:金型組付け工程(最大主応力)

STEP2:放電加工工程/締め代0.6%(最大主応力)

さらに締め代を0.5%に変更すると、同じ箇所の最大主応力は約420MPaまで低下しました。

 

STEP2:放電加工工程/締め代0.5%(最大主応力)

このように、CAEシミュレーションを活用することで、締め代や加工条件によって、どこに・どの程度の応力が発生するのかを数値で比較できるため、実際に金型を加工する前から破損リスクを検討できます。

 

CAEでの検証結果から導き出す、金型の破損対策

対策① 締め代を調整して応力を抑える

今回の結果からも分かるように、

締め代が大きくなるほど、放電加工後の最大主応力も高くなる傾向

があります。そこで有効な対策の一つが、締め代をわずかに緩和することです。

例えばインサート外径を小さくする、あるいはケース内径を大きくすることで、締め代による予圧を抑えます。ただし、締め代は鍛造成形時の金型強度や寿命にも関係するため、大きく変更すればよいわけではありません。

実際には、これまでの破損状況や金型寿命も踏まえながら、0.05%程度といった細かな単位で条件を見直し、加工時の割れリスクとのバランスを探っていきます。

 

対策② 粗加工の段階で最終形状へ近づける

もう一つの対策は、インサート単体で行う粗加工の段階で、できるだけ最終形状に近いところまで材料を除去しておくことです。
締め代を与えた後の放電加工量を減らせるため、加工による肉厚や剛性の変化を小さくし、応力状態の変化を抑えることができます。

 

粗加工の段階で、できるだけ最終形状に近いところまで材料を除去しておく

しかし、粗加工の工程が増えれば、金型製作の工数やコストも増加します。そのため、割れ対策だけを優先するのではなく、加工時間や製作コストとのバランスを考える必要があります。

 

DEFORMで最適な金型加工プロセスを事前検証する

CAEソフトウェア「DEFORM」を活用する大きなメリットは、これらの対策を実際の金型で試す前に、CAE上で比較検討できることです。

・粗加工でどこまで形状を作り込むのか。
・インサート外径やケース内径をどの寸法にするのか。
・締め代をどこまで緩和できるのか。
・さらに、その条件が鍛造成形時の金型強度にどのような影響を与えるのか。

こうした条件をDEFORM上で比較することで、金型加工中の割れを防ぎながら、加工工数や金型寿命まで考慮した条件を事前に絞り込むことができます。

金型を加工してから破損原因を探るのではなく、加工前に破損リスクを予測し、条件を最適化する。DEFORMは、鍛造成形だけでなく、その前工程である金型製作にもCAEシミュレーションを活用できるツールです。

 

【お客様による導入事例】
> 冷間鍛造の「やってみないと分からない」を解消!DEFORMによる成形検討と提案力強化

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CAEの応力値を、金型製造の経験から読み解く

DEFORMで金型内部の応力を可視化できても、重要なのは、その数値が“実際の割れや破損につながるレベル”なのかを判断することです。

ヤマナカゴーキンでは、長年の冷間鍛造金型製造の経験から、放電加工中の最大主応力が500~600MPa付近に達すると、破損リスクが高まる一つの目安として捉えています。

一方、完成した金型を用いた「鍛造成形」では、1,0002,000MPa程度の応力が生じるケースもあります。つまり、金型加工中は、鍛造成形時よりも低い応力値でも「割れ」につながる可能性があります。

 

最大主応力

その要因の一つが、加工途中の金型表面です。

放電加工後はまだ研磨や鏡面仕上げを行っておらず、表面には微細な凹凸が残っています。この凹凸によって局所的な応力集中が生じ、CAE上の数値以上に厳しい状態になることがあります。

完成した金型では、研磨や鏡面仕上げによって表面を滑らかにすることで、こうした応力集中を抑えているのです。

 

㈱ヤマナカゴーキンによる金型製造シーン

CAEで応力を求めるだけでなく、その数値を、実際の金型破損と結び付けて判断できる ──

ここに、DEFORMの解析技術と、長年の鍛造金型製造で培った経験を併せ持つヤマナカゴーキンならではの強みがあります。

 

DEFORMの活用を、鍛造成形から金型製作へ

鍛造分野で広く活用されているDEFORMは、鍛造成形時の材料流動や金型破損を評価するだけのCAEではありません。

今回紹介したように、金型製作の段階から締め代や加工形状による応力変化を検証することで、加工中の割れや作り直しを防ぎ、加工工数や製作コストの低減につなげることもできます。

 

CAEがもたらす実機試験前の評価判断

ヤマナカゴーキンでは、長年培ってきた鍛造金型製造の知見とDEFORMの解析技術を組み合わせ、金型加工から鍛造成形まで、一連の工程を通して最適化を進めています。

DEFORMをすでに活用している現場でも、解析対象を金型製作まで広げることで、まだ改善できる工程が見つかるかもしれません。
鍛造成形だけでなく、その前工程までCAEで見える化し、金型製作全体の最適解を探る。それもDEFORMの活用方法の一つです。

 

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このシミュレーションテーマでよくある質問

鍛造成形では複数工程(多工程)での成形が一般的ですが、そのようなケースにもDEFORMは対応できますか?

はい、対応可能です。
DEFORMでは、複数工程による鍛造成形も一連のプロセスとして解析することができます。実機での条件を各工程ごとに細かく設定すれば、連続したシミュレーションとして計算を行うことが可能です。

また、1工程目で発生した素材の変形や応力状態などは、そのまま次の工程に引き継がれます。そのため、実際の成形過程に近い形で、全体の流れを通した解析が行えます。

ファインブランキングのシミュレーションもできますか?

はい、可能です。

ファインブランキングでは、材料が逃げないようにVリング(くさび)を適切な位置と深さで押し込む工程が重要になります。DEFORMでは、これらのVリング条件をモデル上に細かく設定し、実機に近い成形状態を再現したうえで最適位置や押し込み量を検討することができます。

そのため、材料の拘束状態を踏まえたファインブランキング工程のシミュレーションを、実務レベルで実施することが可能です。

実際の鍛造成形の実機で測定した残留応力のデータを、DEFORMのシミュレーションに反映して解析することはできますか。

はい、可能です。

DEFORMでは、実測された残留応力データをワークピースの初期条件として付与し、鍛造・切削・熱処理など各工程のシミュレーションに反映することができます。

金型寿命を延ばす目的で金型表面にコーティングを施す場合、コーティングの有無による違いをDEFORM上で評価することはできますか?

はい、可能です。DEFORMでは、コーティング層を考慮した応力解析を行うことができます。

コーティングを施した場合に、金型表面や内部にどのような応力が発生するかを確認し、金型寿命の向上に寄与する可能性を解析上で評価することができます。

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E.Y

㈱ヤマナカゴーキン フィールドセールス チーフエキスパート

入社以来20年にわたり、CAEソフト「DEFORM」に携わってきました。入社当初は、社内の設計案件をDEFORMで解析するプロジェクトを担当し、年間約100件の解析を経験。その後は、後輩への技術継承に加え、お客様への提案や課題のヒアリング、解析・報告、CAEトレーニングまで幅広く担当してきました。
米国の開発会社SFTCでの研修やタイ赴任の経験を経て、製品の量産現場で現地スタッフと業務に取り組むことで、解析だけでは分からないものづくりの実情も学びました。
解析・販売・製造現場の経験を生かし、お客様が抱える課題に即した、実現性のある提案を心がけています。

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