執筆者 : S.A ㈱ヤマナカゴーキン 営業部 主任
CAEで、熱間鍛造の複雑形状部への充填タイミングを見極める
熱間鍛造成形では、金型内における材料流動や各部への充填タイミングが、成形品質を左右する重要な要素となります。特にハブ製品のように、ボスやリブ、突起部など複数の形状要素を持つ部品では、各部へできるだけ均等なタイミングで材料を充填させることが求められます。
一部の部位が先に充填されると、そこで材料流動が制限され、残る部位への充填時に過大な成形荷重が生じます。こうした負荷の偏りは、成形不良だけでなく金型破損の要因にもなります。

DEFORMを活用すれば、実機トライを行う前に材料流動や充填過程を可視化し、中間形状や成形条件を事前に検証できます。各部の充填タイミングを見極めながら、より安定した熱間鍛造プロセスの構築につなげることが可能です。
目次
CAEで金型作動タイミングと材料流動を事前検証
金型の初期位置を変えて充填挙動を比較
ハブなどの鍛造品では、製品の最終形状が決められているため、充填タイミングを調整する方法としては、「予備成形形状」や「金型の作動・待機位置」など、鍛造工程側の条件となります。
今回の事例では予備形状は変更せず、DEFORM上でダイの初期待機位置を5mmずつ変化させた3パターンを設定。それぞれの条件で熱間鍛造シミュレーションを行い、「上ボス・下ボス・突起部」への材料充填の進み方がどのように変化するかを比較しました。

ダイの作動タイミングを3条件で変え、材料流動を比較
解析モデルでは、加熱したブランク材を上パンチと固定された下パンチの間に配置し、上側から加圧して成形を進めます。
周囲にはパンチダイと背圧を受けるダイを配置。成形途中でパンチダイがダイに接触し、以降は上パンチ・パンチダイ・ダイが連動して下降しながら材料を各成形部へ流動させます。

今回着目したのは、このダイが成形に関与し始めるタイミングです。ダイの初期待機位置だけを5mm間隔で変化させたパターン①~③を設定しました。
パターン①:基準となるダイ待機位置
基準位置から成形を開始する条件です。
上パンチによる圧下が進み、パンチダイが背圧を受けるダイに接触した後、上パンチ・パンチダイ・ダイが連動して下降しながら材料を各部へ充填させます。
パターン②:ダイの待機位置を5mm下げた条件
パターン①に対して、ダイの初期待機位置を5mm下方へ移動させています。そのため、パンチダイがダイに接触するまでのストロークが長くなり、ダイが成形に関与し始めるタイミングがパターン①より遅くなります。
パターン③:ダイの待機位置をさらに5mm下げた条件
さらに5mm下方へ移動させた条件で、パターン①との比較では10mm低い待機位置となります。パンチダイとダイが接触するタイミングをさらに遅らせることで、ダイによる拘束が始まる前の材料流動がより長く進み、その違いが各部の充填順序・充填完了タイミングに与える影響を比較します。
この3条件をDEFORM上で同一工程として比較することで、
上ボス・下ボス・突起部のどこが先に充填され、どの部位が最後まで残るのか
を時系列で確認できます。
単に最終形状が成立するかを見るだけでなく、成形途中の材料流動まで追うことで、各部の充填完了タイミングができるだけ近づくダイ位置を検討します。
「最小距離分布」から各部の充填タイミングを比較
DEFORMの「最小距離分布」を用いることで、ワークと金型との距離を可視化し、各部がどの程度まで充填しているかを評価できます。
今回比較したのは、上ボス・下ボスがほぼ充填を完了した時点での3パターンです。上ボス・下ボスはすでに金型へ接触している一方、突起部にはまだわずかな未充填領域が残っています。
※グレーの範囲は、ワークと金型との距離が「0」であることを示しています。

このとき、突起部と金型との最小距離は、
パターン①:1.2mm
パターン②:1.7mm
パターン③:2.0mm
となりました。
つまり、ダイの待機位置が最も高いパターン①では、上ボス・下ボスが充填した時点で、突起部も金型へかなり近づいています。
反対に、待機位置を下げたパターン③では、同じ時点でも突起部により大きな未充填距離が残っています。
この結果から、今回の条件では、
ダイの待機位置を高く設定した方が、上ボス・下ボス・突起部それぞれの充填完了タイミングを近づけやすい
と判断できます。
待機位置を下げるほど、ボス部の充填に対して突起部の充填が遅れ、各部の充填タイミングに差が生じる傾向が確認できます。
充填タイミングの差を「荷重推移」から検証
最小距離分布に続き、各条件における「成形荷重」の推移を比較しました。

この時点での荷重は、
各部の充填タイミングが最も近かった
パターン①が 約599ton であるのに対し、
パターン②は 約674ton、
パターン③は 約665ton
となりました。
パターン①と比較すると、②・③では約11~13%高い荷重が生じています。
この差は、上ボス・下ボス側の充填が先行することで、その部位では材料の流動余地が小さくなる中で、まだ未充填である突起部へ材料を流動させるために、より大きな荷重が必要になることを示していると考えられます。
さらに、成形工程全体の「最大荷重」を比較すると、
パターン①が 799ton、
パターン②が 876ton、
パターン③が 868ton
となりました。
ここでも、充填タイミングの差が大きい②・③ほど、パターン①に対して約9~10%高い最大荷重を示しています。

この結果は、先ほどの「最小距離分布」による評価とも整合します。
各部の充填タイミングを近づけることで、特定部位への充填の先行を抑え、未充填部へ材料を流す際の荷重増加を抑制できることが確認できます。
CAE解析で製品成立性まで含めて鍛造条件を評価

次に、上図の突起部の先端まで充填が進んだ状態を確認すると、充填タイミングでは有利だったパターン①に、ハブ内側のわずかな未充填部が見られます(赤い点線の丸)。これは、突起部へ材料が流動する過程で、内側の一部に金型との距離が残ったものです。
この部分が、後工程で切削される「削り代」の範囲内であれば、製品上の問題にはならず、パターン①を採用できる可能性があります。
しかし、この内側部分も十分に充填された形状まで成形する必要がある場合は、パターン②・③も含めて条件を再検討する必要があります。
このように、鍛造条件の良否は、充填タイミングや荷重だけでなく、「最終形状」「削り代」「後加工」「金型負荷」などを含めて総合的に判断することが重要です。
DEFORMを活用すれば、こうした複数条件を実機トライの前に比較できます。案件ごとに重視すべき要素を変えながら、試作回数を抑えて、より適切な鍛造条件を事前に絞り込むことが可能です。
【お客様による導入事例】
> 実機トライからの脱却!DEFORMで進化する鍛造現場の高度活用事例
CAEを活用し、熱間鍛造の安定性と生産性を高める
熱間鍛造成形では、材料流動や充填タイミング、成形荷重、最終形状など、複数の要素を総合的に見ながら工程条件を決めていく必要があります。特に複雑形状品では、わずかな条件差が成形性や金型負荷に影響するため、実機トライだけで最適条件を探るには、多くの工数やコストを要します。
DEFORMを活用すれば、金型製作や実機試作の前に、材料の流れや充填状態、荷重推移までをCAE上で比較・検証できます。
複数条件を事前に試しながら、より安定した鍛造プロセスを絞り込むことで、試作回数の削減や開発期間の短縮、金型トラブルのリスク低減にもつなげることができます。

熱間鍛造における工程設計や成形条件の見直し、材料流動の評価などでお困りのことがありましたら、ぜひヤマナカゴーキンへお気軽にご相談ください。解析方法の検討段階から、DEFORMの活用をサポートいたします。
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このシミュレーションテーマでよくある質問
DEFORMでのシミュレーションにおいて、背圧の設定を盛り込むことはできますか?
はい、可能です。DEFORMでは、成形時に与えたい荷重条件や背圧を加味した解析を行うことができます。
また、案件によって「何トンの背圧を設定するのが最適か」が不明な場合には、実験計画法(DOE)機能を活用することで、複数の条件を比較しながら検討することも可能です。
案件ごとの条件に応じて最適な数値を科学的に導き出し、その結果をもとに背圧設定を検討できる点も、DEFORMの大きな特長です。
実際の鍛造成形の実機で測定した残留応力のデータを、DEFORMのシミュレーションに反映して解析することはできますか。
はい、可能です。
DEFORMでは、実測された残留応力データをワークピースの初期条件として付与し、鍛造・切削・熱処理など各工程のシミュレーションに反映することができます。
鍛造成形では複数工程(多工程)での成形が一般的ですが、そのようなケースにもDEFORMは対応できますか?
はい、対応可能です。
DEFORMでは、複数工程による鍛造成形も一連のプロセスとして解析することができます。実機での条件を各工程ごとに細かく設定すれば、連続したシミュレーションとして計算を行うことが可能です。
また、1工程目で発生した素材の変形や応力状態などは、そのまま次の工程に引き継がれます。そのため、実際の成形過程に近い形で、全体の流れを通した解析が行えます。



